歩いてみましょう

ロンドン郊外には、素敵な散歩道がたくさんあります。

お勧めのウォーキング・コースをご案内しましょう。

 

テームズ川に沿って

 

テームズ川沿いのウォーキング・コースは星の数ほどありますが、私が今回お勧めするのは、キングストンからハム・ハウスまでのコースです。

キングストンの歴史は古く、サクソン時代の王様はここで戴冠式を行っていたとか。今でもギルドホールの入り口に戴冠式に使った石があり、王様の石だから、キングストンと呼ばれる街になったのは有名な話です。キングストン橋はテームズにかかる2番目に古い歴史をもつ橋です。もちろん一番古いのはロンドン橋です。キングストンの中心部から橋を渡って上流方向に歩いていくとハンプトンコート宮殿がありますが、今回は橋の手前を下流方向にキングストン側(対岸はテディントン)を紹介します。

橋からすぐのところに遊覧船乗り場があります。夏にはハンプトン・コート行きや、リッチモンド行きの船が出ています。

次にカンベリー・ガーデンという市民の憩いのためのリバーサイド公園に出ます。子供の遊び場もあり、釣りを楽しんでいる人もいます。私はいつもここで白鳥やアヒルにパンをあげます。公園を過ぎると、高級住宅が並ぶ道に出ます。「どの家がいいかな」と勝手に考えながら進むと、フットパス(自動車が通れない道)になります。

先に進むと、テッディングトン・ロックと呼ばれるテームズの水位を調節している場所があります。人が一人ずつ対岸に渡れる狭い橋もあります。テームズは潮の満干に影響される川として有名ですが、それはこのテディントン・ロックまでだと言われています。

もう少し歩くと、ハム・ハウスがあります。17世紀にローダーデイル伯爵とその息子ダイサート伯爵のために建てられた邸宅で、邸内に展示されている絵画、家具、ダマスクス織り、刺繍を施したフレームなどは当時からこの屋敷に属しているものです。貴族の贅沢な暮らしぶりがうかがえます。当時のままに復元された庭園もお見逃しなく。1637年から1948年までこの屋敷はダイサーと伯爵家のものでしたが、1948年にナショナルトラストの管理になりました。

川に戻り渡し舟で対岸に渡るとマーブル・ヒル・ハウスという18世紀のパラディオ様式の建物があります。ジョージ2世の愛人のヘンリエッタ・ハワードの家でした。中にはホガースやネラーの絵もあります。

 

リッチモンド・パーク

リッチモンド・パークは、2470エーカーの広さを持つ、ロンドン最大の公園です。もともと王室の狩猟地でした。中世からのオークの木があり、園内には600頭の野生の鹿が生息しています。

さて、お勧めのウォーキング・コースは、いろいろありますが、今回はキングストン・ゲートからイザベラ・プランテーションまでをご紹介しましょう。

車でリッチモンド・パークを横切ると感じませんが、自転車や徒歩で公園内を歩くと、結構高低差があることに気がつきます。まず、キングストン・ゲートをくぐったら、すぐに右に、どんどん坂を上る形で進んでいきます。坂を上りきったあたりで、よく鹿のグループを見かけます。野うさぎもたくさんいます。ヨーロッパの童話の森そのものです。

さらに木が多くなってきます。このあたりで春にブルーベルの群生を見ることができます。本当にきれいです。夏はぜんまいが目立ちます。

30分くらいで、緑の柵(鹿を入れないため)に囲まれた、イザベラ・プランテーションがあります。4月の石楠花5月のツツジの花の頃は本当にきれいです。春先には小川沿いに水芭蕉も群生、冬でも、椿やへザー(エリカ)が楽しめます。

 

ウインザー・パーク

ウインザー・グレート・パークは、2000エーカーの広さがあり、チャールズ皇太子がカミュラと初めて出会ったポロの競技場もあります。ウインザー城からつながるロング・ウォーク(チャールズ2世が作った3マイルの遊歩道で、ウインザー城のイーストテラスとグレート・パークのジョウジ3世像を結ぶ)などいろいろとお勧めはありますが、今回はヴァージニア・ウォーター湖一周について書こうと思います。

ヴァージニア・ウォーター湖は人口湖で、1750年にジョージ2世の息子で、スコットランドのカロディンの戦いでの残忍さから「肉屋」としてよく知られているカンバーランド公ウイリアムが造ったそうです。

特にお勧めなのが、湖の北側に3月ごろ咲く野生の水仙の群生です。普通の水仙より小さくて、春の訪れを告げるように斜面一面に咲き、感動しますよ。同じ頃に椿の花も咲きます。それから水辺では水芭蕉が咲き始めます。そして4月ごろ石楠花、5月ごろツツジと続きます。夏の緑もいいですし、秋の落ち葉の季節もロマンチックです。

湖の西側にレプシス・マグナの遺跡があります。1816年に皇太子プリンス・リージェントに送られたものだそうですが、大英博物館へ収容されるはずだった遺跡がなんでここにあるのか不思議です。

公園内にはサヴィル・ガーデンという植物園もあります。

 

リッチモンド・タウン

リッチモンドはロンドン西の郊外に位置する、とてもお洒落な街です。もともとはシーンと呼ばれる土地でしたが、1501年にヘンリー7世によって宮殿を再建した時に、ヘンリーのノースヨークシャーの領土の名をとってリッチモンドと名づけられました。

今回はリッチモンド・ヒルから、リバーサイドを通って、リッチモンド宮殿跡地までご案内したいと思います。 

まず、リッチモンド・ヒルですが、小高い丘の上にある高級住宅地として有名です。ローリング・ストーンズのミック・ジャガーの家があるのは特に有名で、18世紀にはロイヤル・アカデミー初代会長だったジョシュア・レイノルズも晩年の20年間ここに住んでました。リッチモンド・ヒルからのテームズ川の景色は最高で、19世紀の画家のターナーやコンスタブルもここで景色を描いています。静かに流れるテームズ川の向こうにトゥイッケナムの街とラグビー場が見え、川のこちらにはピータシャムの田園風景が広がります。

ここにはリッチモンド・ヒル・ホテルやリッチモンド・ゲート・ホテルなど宿泊施設もありますので、しばらく滞在されて、リッチモンド・パーク(2470エーカー)やテームズ川沿いの遊歩道を散策するのもいいと思います。

 さて、街に向かって少し歩くと、テラス・ガーデンに出ます。市民の憩いのための公園で、一年中花が咲いています。公園の中にはコッテッジ風ティールームや、18世紀の川の神の彫刻があります。テラス・ガーデンを通って、丘からリバーサイドに降りることもできます。

川沿いの道は本当にきれいですが、満月の日の満ち潮の時間は、川の水があふれて道がなくなることもあります。川沿いには洒落たレストランや遊覧船乗り場などがあります。正面に見える橋が、1777年に造られたリッチモンド橋です。橋の向こうはトゥイッケナムの街で、このあたりは、フランス革命の後、難を逃れてきたフランス貴族が多く住んでいたところで、その中にはオルレアン公の一家や、ルイ・フィリップ(ルイ16世のいとこで、1830年から48までフランス国王。1848の2月革命で退位させられ再びリッチモンドに帰ってきた)なども含まれていました。

川沿いにはホワイト・クロスというパブがあります。ここは川沿いの眺めがいいパブとして、散策の休息場所にに最適ですが、満ち潮のときは水があふれて外のベンチは使えなくなることがあります。

川から街の方に進みますと、リッチモンド・グリーン手前の住宅に「リッチモンド宮殿跡」というプレートがついています。ノルマン時代からマナーハウスがあった場所に14世紀にエドワード3世がここにシーン宮殿を造りました。1497年の火事の後、ヘンリー7世によって再建され、シーンはリッチモンドと改名されました。この宮殿はチューダー王家のお気に入りの城で、メアリー1世はここにハネムーンにきましたし、エリザベス1世はここで亡くなっています。エリザベス1世の後、スコットランドのジェームズ6世に次期イングランド国王になるという知らせを持って、家臣ロバート・カーリーが出発したのもここからでした。ピューリタン革命の際、この宮殿は破壊され、1650年にこの土地は売却され、普通の家が建つようになりました。もしずっと宮殿が建っていたら、ハンプトンコートにも負けない歴史を持っていたと思うと残念です。

 

湖水地方 

湖水地方に行ったときに、グラスミアのダヴ・コテッジからライダル・マウントまで、フットパスを歩きました。

ダヴ・コッテッジは詩人のウイリアム・ワーズワースが29歳から8年ほど住んだ家です。幼馴染のメアリーと結婚したり、次々と子供たちが生まれた時期で、ここで多くの詩を作っています。

ダヴ・コッテッジの前の道をどんどん登っていきますと、しばらくして分かれ道があります。標識はありません。このコースはいろいろなガイドブックに載っていますが、よくみんな道を間違えないものだなと思うほど、標識がありません。私の場合は、会う人ごとに道を聞くという方法で、乗り切りましたが・・・。舗装の道も、途中から山道になります。それどころか、湧き水があったり、木が倒れていたり、途中から獣道のようなところを進むことになります。右側に湖が見えますが、その頃は歩く道も大変なので、ゆっくり鑑賞している余裕がありません。途中ぜんまいがたくさんあるところを歩いたことはよく覚えています。「本当にこの道でいいのだろうか?」と不安になる頃、道が下り坂になり、舗装道に戻ります。道はそのままライダル・マウントの裏まで続きます。

ライダル・マウントはワーズワースが人生の後半、38年間も住んだ家です。大きな家で、庭もきれいです。遠くに湖も見えます。

距離的には2キロ半だそうですが、気候的には最高の6月の薄曇りの日で1時間かかりました。余裕をもってお出かけください。

  

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