エジプト・ミイラ

古代エジプト人は肉体には「カー」と呼ばれ自分に生命を与える力が棲むと信じていました。人はその「カー」を持って生まれ、生きている時はその人の中に棲み続け、その人が亡くなると「カー」は肉体を去りますが、肉体が保存されれば、彼が再び生きられるように、その肉体に戻るものとされていました。ですから肉体が墓の中でできる限り命ある状態に似せて保護され、保存されて生きつづけなければならないと考えました。現在知られているミイラ作りに成功するのは紀元前2500年、ギザのピラミッドで知られるクフ王の時代です。

 ミイラの作り方

黒曜石で左の脇腹に15cmくらいの切り口を作り、肺、胃、肝臓、腎臓、腸を取り出します。内蔵は松脂を染み込ませた布で包み、相応のカノポスの壷に収めます。 壷の蓋には人間、バブーン、ふくろう、ジャッカルの頭が彫られています。 心臓だけはそのままにしておきました。心臓は考えるところだと思われていたからです。 脳は必要ないと思われていたので、頭蓋骨を傷めないように、鼻孔から先に小さなスプーンがついた棒で脳を取り出しました。次に体を乾燥させます。強力な乾燥剤であるナトロン(天然炭酸ソーダ)を振りかけ、太陽熱の力も借りて40日間にわたって乾燥させます。乾燥の後はしぼんだ身体を美しくするために死体を沐浴させ、スパイスや薬草をすり込み、聖油を注ぎます。香を焚き、この作業は15日間続けられます。今度は包帯巻きにはいります。遺体の名前や呪文の書かれたリンネルの布が用意され、指から肩へ、頭から足へと巻かれていきます。呪文を唱えながら儀式的にやるので、ここでまた15日間かかります。そして70日経ったとき、ミイラは喪に服している遺族の待つ家に戻されていきます。最後に墓の入口で口開きの儀式があります。神官が手斧を持ち、祈祷の朗詠に合わせて、見ることができるようにと目に、聞くことができるようにと耳に、話すことができるようにと口に、斧を触れていきます。

西暦1世紀以降のミイラは技術が悪くなり、保存状態はあまり良くありません。そのころになると、実際の顔に近い肖像画をつけるようになりました。ギリシア・ローマ文明の影響を受けていることが分かると思います。4世紀、ローマ時代後期にキリスト教が広まり、ミイラは作られなくなりました。

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